鍼灸の代表的な適応症の1つであるギックリ腰について解説します。


ギックリ腰は体をひねる、重いものを持つなどの瞬間に発症する急性の腰痛のことで、西洋では「魔女の一撃」と呼ばれています。


ひどい場合にはそのまま動けなくなってしまい、1週間以上寝込むことも珍しくありません。


ギックリ腰をくり返す人の中には、くしゃみをする、靴下を履くなどふとした拍子に再発したり、朝起きたら痛くなっていたなどのように、きっかけなく再発する場合もあります。


このような場合も含めギックリ腰として解説いたします。

目次

1,痛みの原因と症状

ギックリ腰は、強い力が加わったために腰の筋肉、靭帯、関節部や椎間板などを損傷して起こる急性の腰痛であると医学書では説明されています。

ギックリ腰にも様々なタイプが有り、腰を伸ばす、立ち上がるなど特定の動作が痛いタイプから、すべての動作で腰が痛むタイプ、咳をしても腰が痛むタイプまであります。

筋肉や靭帯が原因の場合は特定の動作で腰が痛み、関節や椎間板が原因の場合、様々な動きで腰が痛む傾向があります。

また、咳やくしゃみをしても腰が痛む場合には椎間板が原因のことが多く、悪化させると入院や手術となるケースもありますので無理をしないことが肝腎です。

ギックリ腰は、安静にしていれば痛みを避けていられるのが普通ですが、同じ姿勢でいると腰が重苦しくなり、痛くて動けないのにじっとしていることも辛い、というタイプの痛みもあります。

このタイプの方はお酒好きなど食生活にも原因がある場合が多く、体の中で炎症と循環障害がおきやすい状態で中医学で「湿熱証」と呼ばれています。

腰に強い力が加わったために起こるとされるギックリ腰ですが、靴下を履く、咳をするなどちょっとしたきっかけで再発するケースもあります。

このような場合、再発しやすい原因が体のなかにあるのですが、その原因については別の記事で詳しく解説します、

2,ギックリ腰の治療

ギックリ腰には鍼の治療がとても良く効きます。

痛みの原因が筋肉にある場合には、一度の治療で痛みの大半が取れてしまうことがあります。

腰の靭帯を損傷している場合には、靭帯は筋肉に比べ回復の遅い組織であるために、痛みが取れるまで数回の治療を要することが多いのですが、安静にして回復を待つよりも鍼の治療を受けたほうが早く楽になります。

なお、筋肉を痛めた場合には左右どちらか片側の腰が痛み、靭帯を痛めた場合には腰の真ん中あたりが痛む事が多いです。

関節部分や椎間板を痛めた場合、腰の広範囲に痛みを感じたり、神経を通じてお尻や足にも痛みを感じることがあります。

関節部や椎間板の痛みの場合、一度の治療でかなり痛みが取れることもありますが、程度によりある程度回数のかかる場合もあります。
どちらにしろ安静にして回復を待つよりも鍼治療を受けたほうが早く楽になります。

なおマッサージの治療は、靭帯や関節、椎間板といった組織に対して治療効果が及びにくいためギックリ腰の治療にあまり効果的とは言えません。

マッサージは慢性腰痛の改善やギックリ腰の再発防止に効果を発揮しますが、ギックリ腰の治療には鍼治療をおすすめしています。

3、病院に先に行くべきなのか?

鍼治療を受ける前にまず病院に行くべきでしょうか、という質問を受けることがありますが、私は必要ないと考えます。

病院に行くとほとんどの場合、まずレントゲンを撮ってくれます。
MRIやCTなど精密な画像検査をしてくれる病院もあります。
病院で行う腰痛の検査というのは、画像検査なのです。

ところが、腰痛の原因は画像ではわからないことが多いのです。

画像で見ることができるのは、骨と軟骨です。
骨や軟骨に異常があれば、それが腰痛の原因だと判断し、異常がなければ大したことはないと判断します。

ところが腰椎の変形やヘルニアなど骨や軟骨に異常があっても、痛みの原因はそれではないということもあります。

手術でヘルニアを取り除いても腰痛が治らないことがあるのもそのためです。

また、MRIで見ると腰が痛くない人にも一定の割合でヘルニアがみつかるといいます。

その反対に、骨や軟骨に異常がなくても強い痛みが続くこともあります。

このような場合「異常はありません」と言われますが、異常がないのではなく画像検査ではどこに異常があるのかわからないのです。

腰痛の診断で一番大切なのは詳細な問診と、患部の触診です。

痛みの場所、性質、どのようにすると痛いのか、安静時はどうなのかなどを詳しく聞き、筋肉の緊張度や押したときの痛みなどを丁寧に確認することで痛みの原因と腰の状態が判断できます。

そして、腰の状態がわかれば効果的な治療が行えるのです。

また病院では、画像検査で異常があってもなくても処方される薬や湿布は同じであることが大半です。

もちろん薬や湿布が効果的な場合もありますので、病院に行くことを止めはしませんが、病院か鍼治療か迷われている方にはまず鍼治療をお勧めします。

4、どのように過ごしたらよいのか?

痛みが強い場合や、あらゆる動作で痛む場合、咳やくしゃみをしても腰が痛む場合には極力仕事を休み、横になって安静にすることをお勧めします。

特定の動作のみで痛むという場合、例えば前に曲げるときだけ痛い、腰を伸ばす時だけ痛いという場合には痛い動作を避けながら日常生活を続けてもらってよいと思います。

「痛くても腰を動かしたほうがよいのではないか?」という質問をいただくことがあります。

慢性腰痛の場合には痛くてもある程度運動をしたほうが良いのですが、急性腰痛の場合は痛い動作をとれば回復が遅れると考えていただいたほうが良いです。

痛い方向へストレッチをするなどの無理は禁物です。

「温めるのと冷やすのはどちらが良いか」と聞かれることもあります。

ぎっくり腰には、温めたほうが良い場合と冷やしたほうが良い場合、どちらも必要ない場合がありますが、温めた方が良い場合には温めると気持ちよく、冷やしたほうが良い場合には冷やすと気持ちよく感じます。
気持ちが良いほうをしてください。

温めても冷やしても気持ちよくない場合には、どちらも必要ありません。

病院で湿布をもらった場合でも、貼っていて気持ちよくないならば、貼る必要はありません。

腰痛ベルトやコルセットなどに関しても、付けていて楽ならば有効ですが、変わらないならば付ける必要はありません。

椎間関節に痛みの原因がある場合には、ベルトをしているとかえって痛いという場合もあります。

腰痛ベルトで腰が伸ばされると関節部が深くかみ合うためです。

このような場合はベルトは回復の妨げになります。外すことをお勧めします。

なお、ここで説明していないことでお聞きになりたいことがある場合には、メールか電話でお問い合わせください。

わかる範囲でお答えします。