坐骨神経は、腰から足先まで伸びる人体で一番長い神経で、この神経に沿って出る下肢の痛みを坐骨神経痛と呼びます。


お尻から足先まで痛む場合もあれば、太ももから膝まで、すねの外側から外くるぶしまで、など痛みの範囲は様々ですが、立っているだけで痛い、腰を曲げると足が痛い、など下肢の筋肉を動かさなくても痛みが出ることが筋肉痛との違いになります。


「坐骨神経痛」は症状に付けられた病名で、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など様々な病気が坐骨神経痛の原因になりますが、病院の検査では原因が見つからないことも多くあります。


原因が見つからない、というと不安になると思いますが、画像検査で異常がないというだけで、症状の特徴やその方の体質などから東洋医学的に診察すると、ほとんどの場合痛みの原因は明らかになります。


今回は東洋医学の視点から、坐骨神経痛によくある3つのタイプについてその原因や症状、治療法や生活上の注意などについてご説明します。

目次

1,瘀血タイプ;神経の根元で圧迫や炎症が起きたタイプ

立ち上がる、腰を曲げるなどの動きで強い痛みが出る。咳やくしゃみ、車の振動などが下肢にひびく。痛いほうの下肢に体重をかけられない、などの症状があるタイプです。

ズキンという刺すような痛み、ピキッという神経に触るような痛み、お尻や足の奥に感じる鈍痛など痛み方は様々ですが、痛みが強いため日常生活が困難になりがちです。

東洋医学ではこのタイプの痛みを「瘀血」と呼び、血液循環が強く障害されたことが痛みの原因と捉えています。

ギックリ腰とともに始まった坐骨神経痛や、椎間板ヘルニアの多くはこのタイプで、椎間板付近の神経の根元で強い圧迫や炎症がおきているケースが多く、病院では神経の根元に麻酔薬を入れるブロック注射などが行われますが、効果のない場合もあります。

動くと強く痛みますが、通常は安静にしていれば痛みを避けられます。
しかし、循環障害が強いと夜中に痛みで目が覚めることもあります。

ブロック注射で効果がない坐骨神経痛でも、鍼治療で治るケースが多くありますが、まれに手術でヘルニアを取り除かなければ痛みから解放されないこともあります。

建設業や農業、介護など中腰の仕事をする人に出やすい傾向がありますが、ストレスにより自律神経の緊張が続くことで発症することも多くあります。

日頃から軽い運動をする、腰のストレッチをするなどが予防のために有効です。

腰のストレッチは動かして気持ちのいい方向に腰を曲げることが大切で、痛い方向に強く曲げることは逆効果です。

また、強い痛みが出ているときにストレッチを行うのも禁物です。
痛みの強い時には安静が必要です。無理をしてはいけません。

2,湿熱タイプ;食生活の問題で慢性炎症を起こしたタイプ

じっと座っていると腰から下肢が重苦しく痛み、立って動いていると痛みが軽くなります。

同じ姿勢で座っているのが辛いために、立ち上がれないときには足を組み替えたり腰の位置を変えたりモゾモゾ動いています。

慢性的な炎症が坐骨神経に起きたタイプの神経痛ですが、多くの場合炎症の原因はお酒の飲みすぎや脂質や砂糖の過剰摂取など不適切な食生活にあります。

健康に良いと信じて毎日ヨーグルトを食べ続けてこのタイプの坐骨神経痛になった方にも何人かお会いしたことがあります。

このタイプの坐骨神経痛を東洋医学では「湿熱」タイプと呼びます。

アルコール、砂糖、脂肪などの過剰摂取は老廃物を体に溜め込みやすく、この老廃物が循環不良の原因となり慢性的な炎症を起こすのです。

電気治療や牽引、服薬など病院での治療はあまり効果がなく、ストレッチなどの運動療法も一時的な効果しかありません。

その一方鍼治療は効果が高く、大半の方は一度治療するとある程度痛みが楽になったことを実感でき、数回の治療でほぼ痛みから開放されます。

ただし、食生活の問題をそのままにしておくといずれ再発します。

飲酒量を減らす、お菓子を減らしてご飯(お米)をしっかり食べるなどの食生活の見直しが大切です。

3,腎虚タイプ;足腰を支える力が不足したタイプ

長く立っていたり歩いていると痛みが出て、座って休むと楽になるタイプです。

朝のうちは痛みが軽く、疲れてくる夕方に痛みが強くなります。

高齢の方や体力のない方に出やすいタイプの坐骨神経痛です。

足腰を支える力が不足しているために、足腰に負担がかかると神経が徐々に圧迫され、休むと回復するということが起きており、このタイプの坐骨神経痛を東洋医学では「腎虚タイプ」と呼びます。

座って休めば回復する方は程度の軽い方で、横になって休まないと楽にならない方もいます。

病院でレントゲンを撮ると「軟骨がすり減っている」「骨と骨の間が狭くなっている」などと言われ、変形性脊椎症と診断されることもあります。

骨に変形があると聞くと、もう治らないというイメージを持つ方が多いのですが、実際はそうでもありません。

鍼の治療によりほとんどの方は痛みが改善しますし、完全に治ってしまう方も珍しくありません。

実は腰椎の変形は40代くらいから結構な割合で見られるのですが、足腰になんの症状もない方もたくさんいるのです。

骨の変形が治らなくても、鍼の治療により足腰を支える力が回復すれば、神経が圧迫されずらくなり痛みから開放されるのです。

足腰を支える力は、足腰の筋肉の力だけでなく、腰を前から支える腹腔内の圧力や腹部の筋力、脊椎や軟骨の細胞を新生する代謝の活発さなど様々な要素で成り立っています。

そのため、この腎虚タイプの坐骨神経痛を治療するときには、足腰の症状だけでなく胃腸の状態や泌尿器や生殖器の症状、睡眠の状態など足腰に影響を与える様々な事柄について詳しくお話をうかがってから治療を行います。

このタイプの坐骨神経痛にお困りの方から「運動不足が原因ですか?」と聞かれることがよくありますが、そうである場合もあれば違う場合もあります。

50代以下の若い方の場合には運動不足が原因のことも多く、少しずつ運動をすることで治る場合もありますが、ご高齢の方の場合は痛みに耐えて無理に運動することで悪化することも多々あります。

運動は有効ですが、まず鍼の治療で足腰の力を回復させて痛みを改善し、その後に無理のない範囲で運動を始めるのがおすすめです。


以上坐骨神経痛の原因や症状について、代表的な3つのタイプをご紹介しましたが、坐骨神経痛にはここで述べた以外にも様々なタイプが有り、また1の瘀血タイプに2の湿熱を兼ねるなど複雑な症状の方もいます。

治療にいらっしゃるときにはご自分の痛みについて、どのあたりにどんな痛みが出るのか、どのようにすると痛く、どうすると楽なのかを観察したうえで来て診察時に教えていただけると適切な治療をするうえで助けになります。

お困りの方はぜひご相談ください。